作品

ベートーベンは、同時代の作曲家と同じく広いジャンルの楽曲を次々に作曲しています。 オペラや演劇のための付随音楽から、ピアノのための楽曲、オーケストラによる交響曲、管弦楽、吹奏楽、舞曲、声楽曲と関わったジャンルの幅広さは相当なものといえます。

ベートーベンの楽曲の大半を占めているのがピアノのための曲です。幼少の頃からピアノ教育を施され、難聴を克服するための特注ピアノを準備するなどしてきたベートーベンにとってピアノは、もっとも身近で自分に降り注ぐ音楽を素直に表現できる楽器だったのです。

ベートーベンの作曲した楽曲の中でピアノが主役を務めているのは138曲中65曲で、ほぼ半分がピアノのための曲なのです。 現代に引き継がれたベートーベンの楽曲の中でも、特に人気が高いのは交響曲です。

中高の吹奏楽部や市民楽団がこぞって練習して発表会で演奏していることに加え、「のだめカンタービレ」のヒットによるクラシック再評価の流れなどで、人気が高まっているのです。

交響曲第三番「エロイカ」 ベートーベンが、革命で揺れていたフランスを平定した英雄ナポレオンに捧げるべく作曲した交響曲です。しかし、ベートーベンが皇帝に就任したことにベートーベンが怒り、題名を書き換えてしまったといわれています。

交響曲第五番「運命」 「ジャジャジャジャーン」という、独特の旋律から始まる交響曲第五番「運命」は広く人気を集めるクラシック曲でもあります。運命の波乱万丈さを表すかのようなダイナミックなメロディは、初心者にも向いているといえます。

この作品における、そのような物語性は、一口に言えば「苦悩から歓喜に至る道程」です。深刻な表情の第1楽章から、歓喜が爆発するような第4楽章まで、この交響曲ではまるで一つの物語が進行していくようにも聞こえます。

とりわけ、第3楽章のスケルツォと第4楽章の間は休みを入れず、直接繋がっていて、暗くて不気味な響きから明るくて楽しげな響きへの突然の変化を印象づけるのです。

第4楽章冒頭での歓喜の爆発を表現するために、ベートーヴェンはそれまで交響曲のオーケストラでは用いられることのなかったピッコロ、トロンボーン、コントラファゴットを使っています。

これらの楽器はそれまでは軍楽隊で使用されることが主で、稀にオペラのオーケストラにも用いられていましたが(トロンボーンは教会の楽器としても不可欠でした)、交響曲のなかで使用されることはなかったのです。

おそらく、ベートーヴェンは、喜びの気持ちが勝利の凱旋行進をするような音楽をこの楽章で求めたかったのでしょう。この工夫のおかげで、第4楽章はゴージャスな響きを獲得することとなったのです。

また、「運命動機」と呼ばれる「ジャジャジャジャーン」が第1楽章だけでなく、第2楽章以下にも形を変えながら再使用されている点も見逃せません。

一つの旋律形(「動機」と呼ばれます)に徹底的にこだわって、音楽を作るという手法は、ベートーヴェンの師であったハイドンが得意としたもので、彼は師の手法をさらに発展させていったのです。

「運命」は交響曲においてこの手法を最も効果的に用いた作品といえ、先ほど触れた物語性をさらに強めています。 交響曲第七番 交響曲第七番は、ごく近年になって再評価され始めた交響曲といえます。

ドラマ「のだめカンタービレ」で、メインテーマとして扱われたことによって知名度を高め、ベートーベンの隠れた代表曲として扱われるようになってきたのです。 交響曲第九番 交響曲第九番は、ベートーベンの楽曲の中でもっとも有名な曲といっても過言ではないでしょう。

第九の特色は第四楽章の合唱部分です。この第四楽章は詩人シラーの「歓喜に寄す」に曲をつけたもので、俗に「歓喜の歌」と呼ばれています。 3大ピアノソナタ ピアノを愛した作曲家であるベートーベンは、数々のピアノ演奏曲を作曲しています。

中でも、全32曲あるピアノソナタの内の「三大ピアノソナタ」と呼ばれる三曲が、人気の高い曲となっています。 第8番「悲愴」 ピアノソナタ第八番「悲愴」は、ベートーベンが表題をつけた数少ない楽曲の一つです。

この曲を作曲した当時は、まだピアノは主流の楽器ではなかったことを考えるとベートーベンの野心作であると位置づけられます。 第14番「月光」 ピアノソナタ第十四番「月光」は、本来ピアノソナタ第十三番とセットで作られた楽曲です。

しかし、「月光」だけが有名になってしまいその本来の意味は失われつつあります。「月光」は、ベートーベンが想い人の女性に贈った曲としてもその名を知られています。

第23番「熱情」 ピアノソナタ第二十三番「熱情」は、ベートーベンの楽曲の中でも高い完成度と評価を誇る最高傑作のひとつといわれています。その名の通り情熱的な旋律を持ち、ベートーベンの「音楽の頂点を目指す情熱」が伝わってくる名曲といえます。

「熱情」は、ベートーヴェンの数あるピアノ・ソナタのなかでも最も有名な作品の一つです。タイトルの「熱情」が示すように、沸き上がるような情熱に満ちています。第1楽章は薄気味悪いつぶやきとも言えるような、低音部での弱音で始まります。

ところが突然、激しい和音の連打によるフォルテが爆発して、聴き手を驚かせるのです。このような、全く反対の表情が対比されることで、この楽章は非常にドラマティックに進行していきます。

この作品を作曲した頃、ベートーヴェンは音域が拡大された新しいピアノを手に入れていますが、ダイナミックな「熱情」はまさにその新しいピアノに相応しい音楽と言えます。 第2楽章は打って変わって、静けさが支配的な変奏曲楽章となります。


音楽で見るベートーベン

変奏の題材となる主題は宗教的な歌にも似た表情をもち、暗い情熱が爆発する第1楽章と第3楽章とは対比的な内容になっています。この楽章は完全に終止せずに、第3楽章に直接繋がっていきます。

第3楽章は、16分音符が休みなく動き続け、演奏者にも聴き手にもスリルとサスペンスを体験させてくれます。そうした音の絶え間ない連なりは、第1楽章とは別の意味で情熱的な音楽を作り出し、テンポをプレストに速めたコーダに至るまで息つく暇を与えてくれません。

ベートーベンの時代の作曲家は、医療技術が進歩していなかったこともあって志半ばで病に倒れた人も少なくありません。 病のために、日の目を見ることのなかった楽曲はそれこそ星の数ほど存在しているのです。

ベートーベンにも、そういった未発表曲・未完成曲が相当数存在しています。 ベートーベンの場合、交響曲の構想が11曲分あったほかにも即興演奏で作られ、楽譜を作られることのなかったピアノ曲が数百曲あるといわれています。